今回は、個人で開業されている士業(弁護士や司法書士、社会保険労務士の方など)の報酬(売上)についてのお話をします。
請求書の読み方
士業(特に司法書士や弁護士)の請求書には、消費税がかかるものがあったり、源泉徴収の対象になるもの、立替したものなど1枚の請求書から読み取る情報がたくさんあります。
司法書士の請求書をサンプルに、請求書を読んでみましょう。
- 士業の書類作成や代理、相談に関する料金を記載します。郵送費や交通費を実費以外でもらっている場合にはこちらに記載。
- 登記する際の収入印紙や登録免許税を立て替えた場合には、こちらに記載。
- ①の報酬に対する消費税。(2019年10月1日以降は、10%)
- 士業に対する報酬は、支払う側が源泉徴収をする必要がある場合があります。支払い側が源泉徴収義務者(注)の場合には、源泉徴収税額を記載します。
- 最終的な金額の合計額(①+②+③-④=⑤)
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売上の計上・売掛金の入金の仕訳
上記の請求書サンプルから、売上を会計ソフトに入力する場合の仕訳・経理を確認してみましょう。
特に、源泉徴収ありの場合を例にとって説明します。
売上の計上
パターン①(源泉所得税を一緒に仕訳にする)
先ほどの請求書の数字を、「仕訳」として表現するとこのような形になります。
「パターン①」とありますが、こちらは「売上」の仕訳を作るときに、源泉徴収される所得税も一緒に仕訳にしてしまう方法です。
パターン②(源泉所得税は一緒に仕訳にしない)
先ほどの請求書の数字を、「仕訳」として表現する「パターン②」の方法です。
こちらは源泉徴収される所得税を一緒に仕訳にしない方法です。
売掛金の入金時に所得税の仕訳をします。
売掛金の入金
パターン①の入金時(なにもしない)
売掛金の入金があった場合にはこのような仕訳になります。
特に何もすることはないですね。
パターン②の入金時(源泉所得税の仕訳も一緒に)
売掛金の入金時に、源泉徴収される所得税を仕訳として認識します。
源泉所得税の勘定科目は「事業主貸」or「仮払税金」?
報酬から引かれる源泉所得税は、「所得税」の前払いをしているようなものです。
確定申告をする時に、集計した数字を使うことになります。
勘定科目として、「事業主貸」や「仮払税金」を使いましょうといった記事をよく見かけます。
どちらでもいいのですが、私は「事業主貸」をオススメします。
ただし、「事業主貸」は他でも使うことがあり、源泉所得税が他のものと混じってしまうため、「源泉所得税」という補助科目を作成して利用するようにしましょう。
どちらのパターンも意味は同じだけど、年をまたぐ入金の時に違いが
どちらのパターンで仕訳をしても、入金されてしまえば同じことです。
しかし、入金が年をまたいでしまうと少し事情が変わります。
パターン①と②の大きな違いは、「源泉所得税」をどの時点で仕訳にするか、です。
パターン①は、売上を計上する時。パターン②は、売掛金が入金される時。
例えば、12月20日の売上で、入金が1月20日だった場合。
パターン①では、源泉所得税は、12月20日に仕訳になります。
パターン②では、1月20日に仕訳になります。
源泉徴収される所得税は、「所得税」の前払いというお話をしました。
次の確定申告でのお話につながりますが、前払いの税金が多くなれば、「還付が多くなる」or「納付額が少なくなる」につながりますね。
確定申告ではどのように処理をするのか、見ていきましょう。
確定申告
確定申告書で記載する場所
売上
請求書の売上金額の1年分の合計は、確定申告書の第一表の収入金額等の事業営業等の欄に記載します。
1年分、請求書から会計ソフトに入力すれば、青色決算書や収支内訳書・確定申告書までほとんど自動で作成されますね。
源泉徴収された所得税(源泉徴収税額)
源泉徴収された所得税の確定申告書への記載場所は2つ。
第二表の「所得の内訳の源泉徴収税額」、第一表の「所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額」の欄。
第二表の「所得の内訳」の源泉徴収税額の合計額を、第一表の「源泉徴収税額」の欄へ転記する形で記載します。
①所得の内訳
記載例
- 所得の種類…営業等所得
- 種目・所得の生ずる場所…〇〇株式会社 住所 東京都港区南青山1-2-3
- 収入金額…57,475円
- 所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額…4,412円
所得の内訳へは、出来るだけ取引先ごとに記載するようにしましょう。(会計ソフトを使えば、集計は簡単です。)
「所得の内訳」の源泉徴収税額の合計額を、第一表の「所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額」の欄へ転記します。
源泉所得税の仕訳はどっちがいいのか?
「源泉徴収税額」は、所得税の前払いであるため、計算した所得税から源泉徴収税額を差し引いて、納付する所得税を求めます。
よって、源泉徴収税額が多ければ、「納付する税額」が減り、又は「還付される税額」が増えることになりますね。
仕訳で言えば、「パターン①」で処理してあれば、12月中に源泉所得税を集計することができます。
「パターン②」の場合には、次の確定申告で集計されることになります。
1年早く集計される「パターン①」をオススメします。
税務的な難しいお話になりますが、所得税法上は、「源泉徴収された、またはされるべき」というように記載があります。
よって年をまたぐ報酬に対する源泉徴収税額も、「されるべき」に含まれるので集計してよいということになります。
「パターン②」を使った場合に、1年早く集計しようと思うと、仕訳を1つ追加する必要が出てきます。(面倒ですし、忘れてしまうことがあります。)
「パターン①」でずっと仕訳をしていれば、仕訳を追加する必要もなく、集計し忘れもなくなるため、やはりこちらのパターンをオススメします。
支払調書と合わない!どうする!?
1月末ごろから確定申告時期に、先方から送られてくる支払調書。
会計ソフトで集計した売上や源泉徴収税額と、支払調書の金額とが「合わない!?」ということがよくあります。
こちらの集計方法と、先方の集計方法が違えば、合わないことも。
そもそも、「支払調書」は先方が税務署に提出するもので、士業に対する交付義務はありません。
交付義務がなければ、確定申告書への添付義務もありません。
そして税務署も、支払調書と確定申告書の源泉徴収税額が合っていないのは心得ているので、支払調書と源泉徴収税額が一致していなくても問題ありません。
自分で作成した請求書を基に集計した金額を「正」として提出しましょう。
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まとめ
個人で開業している士業の請求書から読み取る情報はたくさんあります。
源泉徴収された金額をどのタイミングで仕訳にするか、確定申告書にはどうやって書くのか、支払調書との整合性といったことは、よく迷う論点です。
士業の方の参考になれば幸いです。
もちろん源泉徴収される事業を行っている個人事業主やフリーランスの方にも当てはまるので、こちらも参考にしていただければ幸いです。